前回エジプトに行った時、ヨーロッパのドキュメンタリー番組のプロデューサーに会いました。ヨーロッパ全体で放送している、各国に帰属しない独立系のテレビ局のスタッフだそうです。
 彼は元々はアメリカ人で、エジプト学者でカイロ・アメリカン大学教授のケント・ウィークス博士のアシスタントをやっていた時に、テレビ番組、特にドキュメンタリー番組に興味を持ったということです。すでに何本かプロデュースしたそうですが、ほとんどがエジプトがテーマにしたものだということでした。私はBBCとかディスカバリー、ヒストリーチャンネルといった国際的に名の知れている局のドキュメンタリー番組しか見ていませんでしたので、彼の所属する局の番組は見たことはなかったのですが、話を聞いてすごいなぁと思いました。というのは、私の意見と同じで、日本のドキュメンタリー番組はひどすぎると、彼も言っていたからです。(もちろんすべてではありません。私が関わっているエジプトものを手がけているプロデューサーはとても真面目でいいものを作りますが、視聴率至上主義の番組はバラエティ志向にもっていって視聴者を馬鹿にしているので見ません。)
 また、そういった番組は映像としてはいいものがあるのにチョンチョンとこま切れに画を切っていて、タレントと称する教養も知識のない人が「ワー」とか「スゲー」とか「驚いた」ばかり言っているので、使うに使えない、買うに買えないのだと言っていました。30才を少し超えたその若者は、私の半分しか歳をとっていないなのにとてもしっかりしていて、またこういう若者をプロデューサーとして起用しているヨーロッパの独立系のテレビ局ってすごいなぁと思ったのです。マーケットがワールドワイドなのでしっかりしたものを作らないと、いっぺんで倒れてしまうとも言っていました。
 今回彼に会ったのは、彼が今やっている「エジプトをフィールドにしている世界的発見隊」がテーマの番組に私たち早稲田隊も入れていただいたということで、取材の依頼に来たからということでした。ケント・ウィークス博士、ジェフリー・マーチン博士、シタデルマン博士、もちろんザヒ・ハワス博士など、蒼々たるエジプト学者が私たちの隊を推薦してくれたので、どうだろうかとコンタクトをしてきたのだそうです。しかしその時、こうも言われたそうです。「早稲田隊はあまり自分たちの業績を世界に発信したがらないかもしれないよ。日本的なんだ、彼らのやり方は」
 もちろん冗談が半分で、私たちはすでに20冊以上の英文の報告書も出していますし、国際学会でも常時、隊員の誰かしらが発表しています。要は、今注目の著作権の問題で断られる可能性があるということを言いたかったらしいのです。
 しかし私は即座に、「OK、協力しましょう。コピーライトは主張しません」と答えました。彼は少し驚いていましたがとても喜んでくれ、翌日には今発掘しているアブ・シール南丘陵遺跡を見に来てもらいました。「すごいね、聞くよりすごい」彼はそう繰り返していました。
 しかし驚いたことに、こうしたロケハンというのは下準備に2年かけるのだそうです。すでに半年やっていて、カイロにオフィスを構え、世界中を回って外国隊の許可を取って歩いているそうです。そして撮影に約2年かけ、2011年に4時間から6時間の大型ドキュメンタリー番組として放送するということで、これで21世紀のエジプト発掘のダイジェストができるという壮大な構想です。予算も聞いてびっくりするほど大型でした。日本のテレビ局だって、昔のNHKならできたことなのに、悔しい思いでいっぱいです。

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アケトスタッフ

吉村作治のエジプトピアを運営する株式会社アケトのスタッフです。