古代エジプトの食:食べ物をめぐる暮らし

  エジプトの国土を貫いて流れるナイル川は、水の決して枯れることのない大河である。有名なヘロドトスの言葉に「エジプトはナイルの賜物」というのがあるが、まさしくエジプトは、ナイル川の恵によって育まれた。ナイルが潤す大地からは、陰ることのない太陽のおかげで豊かな作物が実り、ナイルに暮らす魚は尽きることのない資源であった。

  1年に1度、7月頃に規則的に起こるナイルの氾濫であふれ出た水は、耕地を水没させる。この氾濫期をアケトの季節とよび、新しい1年の始まりでもあった。洪水は、上流から沃土を運び、その一方で、土中の塩分を地中海へと洗い流してくれたのである。水がひくと、種蒔きの季節ペレトがやってくる。農民たちは、たっぷりと水分を蓄え養分を吸収した土地に種を蒔く。そして最後に訪れるのが、実りの季節、収穫期シェムウだ。このように、古代エジプトの農民たちは、肥料も使わずただ種を蒔くだけで、豊かな実りが保証されていたのである。

  こうして、ナイル川の氾濫によってエジプトの大地は自然にリサイクルされ、膨大な人口を養うだけの収穫高を維持することが出来たのである。それが、クレオパトラ女王がローマ帝国に敗れて自害し、古代エジプト王朝が終焉を迎えるまで、約3000年にもわたってその歴史が途絶えることのなかった最大の理由なのである。

食べ物をめぐる暮らし