今回のエジプトの政権混乱について

2月11日ムバラク大統領の辞任によって収束したと見られるエジプトの大規模デモは、今までのエジプトでは考えられないことです。1月初旬にエジプトに行っていた私は、全くその気配を感じることがなかったのです。
もちろん、10年以上前からエジプト国民の間では、ムバラク政権の非難はうず巻いていました。いわゆる強権的圧政ということです。それに加えて、賃金が上がらないのに物価はどんどん上がる。政府の高官だけでなく、役人の間に賄賂が横行している。コネ社会で、政府高官と知り合いでないと出世どころか就職もできない。選挙をやっても、仕組まれた人しか当選しない。次男のガマール氏を後継者にしようとしている。等々、不満が人々の間で噴き出していて、散発的にはデモがあったのですが、治安警察に抑えつけられ、首謀者は投獄され幕切れでした。
しかし、エジプト人は立ち上がらない、と言うか、立ち上がれないというのが、巷の感想でした。ナセル革命を夢見る人は少なくなかったのですが、少なくとも今の生活を壊したくない、という保守的な人が大多数だったわけです。しかし、チュニジアの市民のデモによる大統領の追放を見た人々がエジプトでもやれると感じ、フェイスブックとかツイッターで仕掛けたところ、大成功というわけです。それはそれで間違えてはいないのでしょうし、時の流れは独裁から民主へというもので、遅かれ早かれイスラム圏の北アフリカや中近東ではそうなっていくのでしょう。しかし、時間はまだまだかかると思います。それが現実となるためには、この地域の全ての人々の敵であるイスラエルが、もっともっとひどいことをしないと進まないでしょう。
しかし、今回エジプトでどうしてこうも急展開したのでしょう。若者や貧しい民衆の力が結集した結果といえばそれまでですが、それは10年も前から社会の底にはあったのです。それを解くカギは、軍にあると思います。「自由を得られた」、「民主化された」、「独裁は終わった」、と民衆は喜び乱舞したと伝えられていますが、よく見れば、軍によるソフトクーデターです。それを悪いと言っているのではありませんが、今後、軍は国政に関わらない、1日も早く文民の民主的政治が行われることを願っていると軍の評議会は言っていますが、こういう声明の裏を読めば、きちんと民衆による政治体制ができなければ軍が行うと言っているということです。もちろん、軍がやっている限り、民衆によるはね上がりは行われないでしょう。今回の大規模なデモが成功したのも、軍は不介入と当初から言明していたという背景なしには、このように早く成功しなかったと考えられます。
第一、国を守る軍が国内の争乱に介入しないと当初から鮮明に打ち出すなんて、おかしいです。もともと、ムバラク政権の独裁的強権政治の背景は軍だったわけです。私も45年にわたってエジプトで発掘調査を行っていますが、何度も、いや何十回も軍の力でねじ伏せられた経験があります。その理由はいつも、「国益を守るため」でした。それはそれで、エジプトで調査をさせていただいているのですから従うべきですし、従ってきました。「国益を守る」という至上命令を実行するのが軍だとすれば、今回の本当の主役は軍だったのではないでしょうか。軍が、若者や一部先進的民衆を駆り立てて起こしたものではないかと考えます。もちろん、それが悪いと即座に言い切ることはできませんが。
ともかく、ムバラク大統領が軍によって切られた、見放されたということでしょう。その裏に米国があるとさえ言われています。それほど、ムバラク一族とその周辺の人たちが腐っていたということかもしれません。隠し資産が何兆円とも言われ、スイス銀行が口座を凍結したとも伝えられています。独裁制の最も卑しい形だった情報が、あることないことを交えてこれから出てくるでしょう。独裁者の末路で、病魔に犯されているムバラク大統領は近々に死を迎えるかもしれません。
軍が裏の主役であれば、対米、対イスラエル、対ヨーロッパ、対日の政策は、変わらないでしょう。ムスリム同胞団が積極的に関わらなかったのも不気味です。民衆はすっかり英雄気取りで、何でも通ると思っていますから、民衆の要求はよりエスカレートしていくでしょう。どこかで軍はそれを抑えないと、国が潰れてしまうでしょう。ちょっとやそっとの外国の援助では、膨れ上がった民衆の欲求は満たされないでしょうから、次なる混乱が起こらないとは言えません。
文化面でのエジプトとの交流を主たる仕事としている私にとっては、ここ数年が辛いものになるでしょう。現在、私のやっている4つのプロジェクトはストップしています。

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